【東大大越研/DOWAエレクトロニクス/岩谷産業】
IoTを支える高性能ハードフェライト磁石 “ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃”

2017.2.1

“ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃”は2004年に、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 大越慎一教授が見出した高性能ハードフェライト磁石である。今回、ナノ材料開発・製造技術を有するDOWAエレクトロニクスがナノ酸化鉄の量産化を、新素材分野への展開を図る岩谷産業がマーケティングおよび販売を受け持つことで、基礎開発から市場展開への体制が整い、nano tech 2017出展となった。

新材料“ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃”とは

図1:ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃の概要

“ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃”は、直径3~50 nm程度で存在するナノ粒子の磁性体で、10 nm以下まで微小化できることから、世界最小のフェライト磁石である。対称性が破れた結晶構造を持つため、強磁性に加えて強誘電性も併せ持つマルチフェロイック材料であり、波長がミリメートル領域の電磁波(ミリ波)を吸収する。このような特性は、すべてのものがネットでつながるIoTや着々と準備の進む車の自動運転などが求めるものである(図1)。
 このため、英国のBBC放送が大越研究室を取材・放送した。また、大越研究室およびDOWAエレクトロニクスは英国立ロンドン科学博物館 (The Science Museum、 London) のビッグデータとセキュリティに関する企画展示(2016年7月15日〜2017年9月1日)に参加を求められ、Google、 Facebook、 Twitter、 University of Cambridgeと並んで出展している。

図2:ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃とその磁気特性

IoT時代の塗布型磁気メモリへの展開

IoTでは、様々なデータの収集、伝達(通信)、蓄積(記憶)、処理が行われ、大量なデータの記憶、通信のセキュリティが求められる。大容量記憶装置としては磁気テープが再び注目されるようになった。これには微細で大きさの揃った磁石が必要になる。ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃は、フェライトFe₂O₃の一形態で、ナノメートルオーダーの粒子径で安定に存在する。記憶の安定性を示す保磁力の高いこと(硬磁性)が求められ、磁気テープには3 kOe以上の保磁力が必要とされるが、ε-Fe₂O₃の保磁力は粒径8.2 nmの時でも5.2 kOeあり、ネオジム磁石 (Nd2Fe14B)やバリウムフェライト (BaFe12O19) より大きい(図2)。しかも、ε-Fe₂O₃の粒径は小さいだけでなく、8.2 nm±2.7 nmと揃っているため、テープに高密度・均一に塗ることができる。“ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃”は将来の大容量磁気テープ材料として期待される。

超100GHzを含む広範囲のミリ波吸収材を実現

図3:ナノ酸化鉄のミリ波吸収

次に応用展開が期待されるのは、ミリ波の吸収材である。ミリ波は波長1〜10 mm(周波数30〜300 GHz)の電磁波で、次世代無線通信WiGig (60 GHz)など利用が拡大している。傍受、ハッキング防止などセキュリティ確保のため、ミリ波の吸収材が必要になるが、100 GHz以上の磁性吸収材は存在しなかった。ε-Fe₂O₃は182 GHzのミリ波を吸収する。また、3価のFeイオンを他の3価の金属イオン(Al,Ga,Rh)で置き換えると様々な周波数のミリ波を吸収できる(図3)。3価イオンだけでなく、2価イオンと4価イオンの組み合わせにすることで吸収帯はさらに広がる。大越教授らの行うミリ波吸収体の開発は、材料開発に始まり、吸収周波数、制限厚み、基板条件などの要求仕様に合わせて塗布液や吸収体を作成する。吸収体の設計ではミリ波の入射方向など使用条件を考慮したシミュレーションを行う。この設計に必要なシミュレーションソフトを開発し、基礎データも揃ってきたので、応用展開を進めることが可能になった。そして、岩谷産業より大手家電メーカー等に紹介を行ったところ、衝撃的な吸収性能と薄さを持った吸収体として評価を受けており、現在、DOWAエレクトロニクスとも連携し、サンプル提供を進めている。

ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃の生成 ~新しい物質創製手段へ~

図4:Fe₂O₃の自由エネルギー

ε-Fe₂O₃は、粒径2.8 nmの水酸基 (OH) を含む酸化鉄Fe10O14(OH)2をガラス (SiO2) で包摂した前駆体を様々な温度で焼結して作る。Fe₂O₃がSiO2に埋め込まれた状態になる。焼結温度の上昇に伴い粒子同士が凝集して粒成長するため、焼結温度により粒径を変えることができる。この焼結体をNaOH水溶液で化学エッチングしてSiO2を除くことによりFe₂O₃ナノ粒子が得られる。Fe₂O₃にはバルク状態で安定な立方晶のγ−型と高温安定な菱面体晶のα−型が知られていたが、大越教授は、特定のナノサイズ領域で斜方晶系のε−型の球状ナノ粒子が得られることを見出した。このようなナノサイズでの相転移はAl2O3でも起こっている。
 物質はその自由エネルギーが最小の状態で安定に存在する。通常のバルク材料の安定相はバルクの自由エネルギーで決まるが、ナノ材料になると表面エネルギーの寄与が大きくなるため、バルクと表面の自由エネルギーの和で安定状態が決まる。γ、α、ε各相の自由エネルギーは粒径に依存し、ある粒径範囲でεの自由エネルギーが最低になる(図4)。ナノサイズにすることによって通常は見えなかった相が現れてくる。こうなると他の材料でも同じことが起こらないかと試してみたところ、Ti3O5ナノ粒子で同じことが起こり、蓄熱セラミックス(λ-Ti3O5)が開発された。ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃で見出されたナノ化による相変化は、ナノテクノロジーによる新たな物質創製手段となる。
ε-Fe₂O₃の結晶構造は、対称性の破れた斜方晶系で、光学特性に非線形性が現れ、1064 nmの入射光を532 nmの光に変換する周波数逓倍に成功している。ε-Fe₂O₃のバンドギャップは2.9 eV(波長430 nm相当)であるため、大部分の可視光に対して透明で、分散液は薄いオレンジ色を示す。このため透明磁気インク、磁性トナーへの応用も期待できる。磁性材料としては、ミクロンサイズの単結晶にすると保磁力が25 kOeを超える120×120×820 nm3のメソスコピック棒状磁石もできることが分かった。

ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃nのもたらすものの更なる追及

“ナノ酸化鉄ε-Fe₂O₃”は高性能ハードフェライト磁石としてIoTの様々な要請に応えるだけでなく、数々の新機能が見出され、応用はさらに広がろうとしている。また、ナノサイズにすることによって見出される新規な相(状態)を利用するという新しい材料創製手法を提供した。展示会のブースでは10年を超える開発に携わってきた研究室のスタッフも説明に当たる。ブース4G−24への来訪を期待したい。

(註)図は全て東京大学 大越研究室 提供

小間番号:4G-24

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