Nano Insight Japan

【名古屋大学】
ナノテクと医学の合体により「がん」簡易早期診断に革新
~尿中マイクロRNAから『がん』を特定~

2018年1月18日

名古屋大学

去る2017年12月13日、名古屋大学、九州大学 国立がん研究センタ-、科学技術振興機構および日本医療研究開発機構から連名で、表記の革新的がん早期診断技術がプレスリリースされた[1]。尿1mLから、がん(肺、膵臓、肝臓、膀胱、前立腺)を特定する技術の実現である。この研究成果は、nano tech実行委員会の副委員長でもある名古屋大学大学院工学研究科の馬場嘉信教授と安井隆雄助教らの研究グループが、九州大学先導物質化学研究所の柳田剛教授、国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野の落谷孝広分野長、大阪大学産業科学研究所の川合知二特任教授(nano tech実行委員会委員長)との共同研究で得られたものである。なお、本成果は、nano tech 2018の名古屋大学ブースでも報告される。

研究開発の背景:

がんは、我が国の死亡原因のトップを占めており、その予防・診断・治療は人類にとって重要な課題であり、特に早期診断は治療の成否に大きく影響するので、関心が高まっている。がんの診断では組織に直接触れない画像診断や内視鏡と、直接組織の細胞を調べるバイオプシー(生検)がある。最近では血液による検査も行われるが、検査に大きな装置が必要でコストもかかる。

近年、がん早期診断のための評価対象として、細胞外小胞体(エクソソーム)とマイクロRNA(RiboNucleic Acid、リボ核酸)が注目されてきた。細胞外小胞体(直径50~5000nm)はあらゆる細胞から分泌しており、がん細胞からも分泌している。そして、血液だけでなく尿、唾液、汗など、あらゆる体液に存在する。内部に蛋白やマイクロRNAなどを包み込んでおり、血管の中では長く生きられないマイクロRNAなどを運搬する機能を果たすことが分かってきた。一方マイクロRNAは、例えばRNA(DNAの情報に基づいてタンパク質を合成する役割を果たす)の活動を補佐するなどの重要な働きをしていることが分かっており、その検出が重要課題となっている。

しかし、尿中の細胞外小胞体は濃度が極めて低い(<0.01vol%)ため、これまでに2000種類以上のヒトマイクロRNAが発見されているにもかかわらず超遠心機を用いても尿20 mLから200~300種類のマイクロRNAが発見されているだけである。従って、尿中の細胞外小胞体に内包されるマイクロRNAを使った非侵襲かつ簡便な疾病診断・健康診断法の実現は困難だと考えられていた。

ナノバイオデバイスによる新展開:

馬場教授らはナノテクノロジーによる医療の革新を目指すナノバイオデバイスの分野に研究を展開しており、その一つとして、ナノピラーやナノワイヤをマイクロ流路に密集して形成させ、特定分子を簡便に短時間で物理的に摘出する手法を進めている。ナノピラーでは血液中のDNA分子を抽出し大阪大学の川合教授が開発されたDNA解読技術ナノポアと連結してヒトゲノム解読の大幅改善を実現した成果も挙げている[2 ]。

尿中のマイクロRNA摘出への挑戦:

今回、尿中の細胞外小胞体とマイクロRNAの摘出への挑戦は、ナノワイヤを用いたナノバイオデバイスを作製して行った。MEMS作製技術によりシリコン基板に形成した試料液を流すためのマイクロ流路内に、直径数10~100 nmの酸化亜鉛ナノワイヤを密集して固定させたもので、そこを通過する尿のなかから静電相互作用により細胞外小胞体を99%捕捉できた。尿1 mlの処理時間は20分という。更にこの捕捉された細胞外小胞体を壊して1000種類以上のマイクロRNAを発見した。図1は左から、尿1 mlを導入するところ、ナノワイヤにより細胞外小胞体を捕捉している状況、細胞外小胞体の内容物からナノワイヤによりマイクロRNAを抽出している状況の写真である。

図1:ナノワイヤを用いた尿中細胞外小胞体の捕捉とそこに内包されるマイクロRNA

 

この実験結果で、これまでに2000種類以上のヒトマイクロRNAが発見されているにもかかわらず、尿からは200~300種類しか発見されていなかったのは、尿中のマイクロRNAの種類が限定されているのではなく、これまでの実験では、尿から採取できたマイクロRNAの存在量が少ないためであり、尿中に十分なマイクロRNAが存在することが確認された。

マイクロRNAによるがんの特定

更に、がん患者ドナーの尿と健常者の尿から回収したマイクロRNAを比較することにより、がん患者のマイクロRNAの特徴を把握することができた。また、泌尿器系のがん患者(前立腺・膀胱)のみでなく、非泌尿器系のがん患者(肺・膵臓・肝臓)でも、がん患者特異的なマイクロRNAを発見することができた。

この研究成果は、2017年12月15日米国科学雑誌「Science Advances」オンライン版に掲載された[3]。

研究推進事業等

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「超空間制御と革新的機能創成」研究領域(研究総括:黒田 一幸)における研究課題「がん転移メカニズム解明にむけた人工超空間の創製」(研究者:安井 隆雄)、日本医療研究開発機構(AMED)次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」(代表者:落谷 孝広、実施代表者:馬場 嘉信)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究A「がん超早期診断・予防のためのがん特異的エクソソーム超高精度解析デバイス」(代表者:馬場 嘉信)の一環として行われたものである。

 

nano tech 2018における紹介

 nano tech 展示会場においては、名古屋大学のブースにおいて本研究内容を紹介する。関心をお持ちの方は、是非ブースを訪問して、詳細内容についてご議論いただきたい。

 

参考文献

[1] 名古屋大学プレスリリース、「尿中マイクロRNAから「癌」を特定」

http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20171218_engg_1.pdf

[2] NanotechJapan Bulletin, 企画特集 10-9 INNOVATIONの最先端 <第27回>「ナノバイオデバイスが拓く未来医療」(2014)

http://nanonet.mext.go.jp/ntjb_pdf/nanoInnov-27.pdf

[3] Takao Yasui, Takeshi Yanagida, Satoru Ito, Yuki Konakade, Daiki Takeshita, Tsuyoshi Naganawa, Kazuki Nagashima, Taisuke Shimada, Noritada Kaji, Yuta Nakamura, Ivan Adiyasa Thiodorus, Yong He, Sakon Rahong, Masaki Kanai, Hiroshi Yukawa, Takahiro Ochiya, Tomoji Kawai, and Yoshinobu Baba, “Unveiling massive numbers of cancer-related urinary-microRNA candidates via nanowires”, Science Advances, doi: 10.1126/sciadv.1701133

 

小間番号:5X-07

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