QunaSysは2018年に設立されたスタートアップ企業で、社名はQuantum Native Systemsを合成して命名された。現在従業員は55名(博士号取得者は24名)。素材・化学・製薬など様々な分野での量子コンピュータの実応用を目指し、量子アルゴリズムやソフトウェアの開発、材料開発におけるデジタル活用を支援している。量子アルゴリズムの研究開発では、大阪大学・富士通・三菱ケミカルなどと共同研究し、誤り耐性量子コンピュータ時代の到来を見据えた量子化学計算のための量子アルゴリズムを開発してきた。一方で、その専門性の高さから、計算科学を自在に扱える専門家は少なく、材料開発現場への導入は困難である。そこでChemical Research Solution 事業部では、LLM (Large Language Model、大規模言語モデル)を用いた計算科学導入推進サービスの提供を予定している。本出展紹介記事では、LLMによる数理モデル構築サービスと、LLMを活用できる人材育成の場であるLLM研究会について紹介する。
材料開発のプロセスにおいて計算科学は強力な武器ではあるが、単に実験を置き換えるような形での導入は難しく、その価値を発揮するためには現象の数理モデル化が重要となる。しかしながら、実験を中心に材料開発を進めている方々にとって数理モデルの構築は困難な場合が多い。計算活用が進んでいる多くの企業ではこうしたモデル化は計算科学活用に長けた専門家の手で行われ、専門性の高い属人的なプロセスとなる傾向がある。そこでQunaSysは、数理モデリングを広く普及させるためにLLMの活用に着目した。図1は材料開発の現場で計算・データ科学を活用する上で重要となるプロセスのワークフローを示したもので、要因分解・フォーカス決定・概念モデル構築・数理モデル構築の4つのステップからなる。材料メーカーとの実際の材料開発プロセスにおける協業を進める中でQunaSysはこれら4つの各ステップにおいてLLMが活用できることを確認しており、従来よりも高速に数理モデルまで落とし込むことができることを見出している。 数理モデリングを高速化するために以下の機能を持ったツールを準備している。
これらツールを活用することで、材料開発者の勘や経験に頼らずに、開発の次の一手を示唆する数理モデルを短期間で構築できる。また、関連領域の文献情報や各社独自のデータを活用することで、数理モデルの妥当性を向上させるとともに、研究開発の方向性に関する示唆の解像度を高めることができる。そこでデータとつなぎ合わせるための以下のツールも準備し、材料開発における理論、さらにはその先の計算の力を最大化するサポートを行う。
こうした数理モデリングに基づく理論的なアプローチと近年物質開発におけるトレンドともなっているMIとの差はどういったところにあるのだろうか。
MIは大量のデータから有望な方向性を示す手法であり、一方LLMを活用した数理モデリングは少量のデータでも大まかな当たりをつける実効性に特徴がある。両者は対立する手法ではなく、相補的な関係にあるといえる。
なお、QunaSysではLLMのモデルそのものは作っておらず、材料開発におけるLLM活用のユースケース探索と実行のためのツール開発をしている。QunaSysの最終目的は革新的材料の創出とその開発支援であり、LLMを用いた高速数理モデリングや誤り耐性量子コンピュータでの高精度シミュレーションの実現・推進を通して材料開発に貢献していく。
図1 :研究開発の現場で計算・データ科学を活用するワークフロー
企業でLLMを活用して材料開発を効率化しようとしても、現状ではユースケースの報告例が少ないこと、専任ではなくサイドワークとして取り組んでいる人が多いことから、個社または個人単独で取り組むにはハードルは高い。そこでQunaSysでは、材料開発に特化したLLM研究会を開催している。図2は、2024年度LLM研究会の実施内容とアンケート結果をまとめたものである。2024年度のLLM研究会には8社、約100名が参加した。
参加者の方からは「自ら手を動かすことで、LLM導入に伴う課題やその解決方法について深く理解できた」「自分ではうまくプロンプトが作成できなかったが、グループワークで他の方の方法を聞けて有意義だった」「実装したコードを実業務で活用してみたい」などの声が寄せられた。2025年度はコンソーシアムとしての機能を高め、事例を相互共有しながらLLM活用の最適解を模索する。LLMを触ったことがない方や、材料開発でのLLM活用に課題を抱えている方に向けて、各種講演やワークショップを実施予定である。
nanotech2025のQunaSys展示ブース(5P-03)では、材料研究・開発でのLLM活用に向けた様々なデモを紹介する。LLMを触ったことがない来場者にも気軽にお立ち寄りいただきたい。
図2 :2024年度LLM研究会の実施内容(上)とアンケート結果
(注)図はQunaSysから提供された。
小間番号 : 5P-03
Copyright© 2025 JTB
Communication Design, Inc. All
rights reserved.