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産業技術総合研究所

【産業技術総合研究所】
社会課題解決を目指す産総研の材料・化学技術
~難分解性・熱硬化性樹脂に適用可能なケミカルリサイクル技術を含む24の最新研究を紹介~

2026年1月14日

国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)は、多様な領域における社会課題解決に向けた研究を行う日本を代表する研究機関である。nano tech 2026では、産総研材料・化学領域から、「資源循環」、「マテリアルDX」、「先進素材」、「革新技術」の4テーマの下、イノベーション創出に向けた24の取り組みが紹介される。本稿では化学的手法によるサーキュラーテクノロジーの代表例として、「資源循環」の中の難分解性プラスチックのケミカルリサイクル研究を紹介する。特にリサイクル困難とされていたエポキシ樹脂のケミカルリサイクルに関する最新研究に注目したい。

1. 難分解性プラスチックのケミカルリサイクルを目指して

プラスチックのケミカルリサイクルは、国際的にG7海洋プラスチック憲章(2018年)や国際化学サミット(2019年)において、その必要性が明確に示された。日本においても、環境省のプラスチック資源循環戦略で、2035年までにサーマルリサイクルを除くプラスチックの資源循環の確立が求められている。
ところが、これまでリユースやリサイクル技術が確立しているプラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂などの比較的主鎖構造が単純で、熱分解反応や解重合反応が容易に進行する易分解性プラスチックに限られ、難分解性で融点の高いスーパーエンプラや、エポキシ硬化物のように三次元的に架橋した熱硬化性樹脂は、リユースやケミカルリサイクルの対象外とされてきた。

2.スーパーエンプラのケミカルリサイクル

多くのスーパーエンプラは、モノマー分子が縮合反応で結合して樹脂化したもので、融点が高く難分解性である。また、エポキシ樹脂を始めとする難分解性の熱硬化性樹脂にも縮合系の化学結合で架橋構造を造るものが多い。さらに、これらの樹脂は強化繊維とともに複合材料として使われることが多く、単純なマテリアルリサイクルではなく複合材料でも原材料にまで分解するケミカルリサイクルが必要である。
産総研は、分解が最も困難なエンプラに適用できるケミカルリサイクル技術であれば、縮合系プラスチックの一般的な基盤技術になるであろうと考えた。初めにPETを対象に、新しいアルカリ分解法でモノマー結合部位を求核的に強力に攻撃し、常温・常圧で90%という高収率でモノマーが回収できることを示した(図1)。

図1. PETの分解によるテレフタル酸ジメチルと炭酸エチレンの合成

産総研はさらに塩基性解重合剤の探索を進め、2023年には、スーパーエンプラのPEEKやPSU類などを対象に、樹脂融点に比べて穏和な150℃という温度条件でケミカルリサイクルに成功した(図2、図3)。これにより、難分解性のスーパーエンプラに広く適用可能 なケミカルリサイクル技術の見通しが得られた。
開発された技術はエンプラのみを選択的に分解するので、エンプラとともに使われるガラス繊維や炭素繊維に影響を与えることなく回収することも可能になる。

図2. 炭素繊維強化PEEKのケミカルリサイクル

図3. PSUのビスフェノールへの解重合

3.エポキシ樹脂(エポキシ熱硬化物)のケミカルリサイクル

スーパーエンプラケミカルリサイクル技術をもって最も難易度の高いエポキシ樹脂のケミカルリサイクルに臨んだ成果がnano tech 2026で紹介される。
エポキシ樹脂は、エポキシ基を持つ分子(主剤)とエポキシ基と反応する分子(硬化剤)とを反応させて硬化させた樹脂のことである。主剤には主にビスフェノールAが使用されるが、硬化剤にはエポキシ基と反応するアミン類、水酸基、チオール基、カルボン酸などの官能基を有するさまざまな化合物が用いられる。これらの官能基はエポキシ基と反応してそれぞれ特有の化学結合で重合し樹脂となる。さらに、分子内に含まれる官能基の数で硬化した樹脂の架橋密度も異なるという特徴もある。実用されているエポキシ樹脂は用途に合わせて様々な組合せから選択されている。このように、エポキシ樹脂はモノマーの化学結合方式が多様で、架橋構造のため物理的にも頑丈であり、エポキシ樹脂の汎用的な化学的な分解手法確立は極めて困難であった。
多種多様なエポキシ樹脂ではあるが、主剤のエポキシ基と硬化剤の官能基との反応で生成する結合の多くは、強力な求核的攻撃で開裂する可能性がある。この着想を基に産総研は、スーパーエンプラのケミカルリサイクル技術の延長線上にある求核的塩基性解重合剤を探索してエポキシ樹脂の分解に成功した。
発表によれば、水酸化ナトリウムやtert-ブトキシナトリウムなどの塩基と、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)などの高沸点溶剤を用い、150℃で7時間という温和な条件でエポキシ樹脂原料のビスフェノールAが効率良く回収される(図4)。この方法はガラス繊維や炭素繊維で強化したエポキシ複合材料にも適用可能で、ビスフェノールAとともに強化繊維も回収できる。
エポキシ樹脂は接着剤用途以外に繊維強化複合材料として軽量・高強度で、スポーツ用具、自動車、航空機などに広く用いられている。今後も一層用途拡大と使用量の増大が見込まれ、ケミカルリサイクルが必須とされることは間違いない。
本技術は、比較的温和な条件で、難分解性樹脂のケミカルリサイクルと強化繊維の同時回収を実現できる点で画期的であり、難分解性プラスチックの資源循環技術に関心を持つ技術者にとって注目すべき技術である。この他にも多数の先端的研究が紹介されるので是非ブース(1W-E37)を訪れて詳しくご覧頂きたい。

図4.エポキシ硬化物のケミカルリサイクル

(注)図は産業技術総合研究所から提供された。

小間番号 : 1W-E37

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